税務は「相殺」を認めない
※相殺→ネット→網→網戸…画像が思いつかず自宅から撮った網戸画像をむりやり^^
ある取引先から依頼を受け仕事を終わらせた。
仕事の売上は10万円。
その後、売上が入金になる前にその取引先に外注を頼んだ。
外注費は6万円。
取引先の社長はこう言った。
「じゃあ、この前やってもらった10万円から6万円を相殺して4万円振込んどくねー」
後日、4万円が入金された。
実務上、よくある相殺取引の一例です。
このとき、売上に計上すべき金額はいくらでしょうか。
相殺前の10万円か、それとも相殺後の4万円でしょうか。
税務は「相殺」を認めない
税務上売上に計上すべき金額は
相殺前の10万円です。
相殺前の金額で計上すべき理由。
それは、相殺前の金額で計上しないと正しく税金を計算できない可能性があるからです。
消費税の納付義務・計算方法は「売上」で変わる可能性がある
特に影響がでる可能性が高いのは「消費税」。
消費税の計算方法は多岐にわたります。
小規模事業者への配慮から、売上(この記事内ではすべて消費税が発生する「課税売上」のことを「売上」と呼びます)が一定額に満たない事業者には、消費税の納税義務が免除されたり、特例計算ができたり、といった優遇規定があります。
例えば
・基準期間(原則として2年前)の売上が1千万円以下の場合、原則として消費税の納税義務は免除される
・基準期間の売上が5千万円以下の場合、簡易課税という特例計算を選択できる(要事前届出)
といったように。
この「売上」は相殺前の金額です。
相殺後の金額ではありません。
本人も想定していない課税リスクがあるのは、毎年相殺前の売上は1千万円超・相殺後の売上は1千万円以下の事業者。
本人は相殺後の売上が1千万円以下なら免税事業者、と思い込んでいるケースです。
税務調査が行われるまで、税務署側では免税事業者なのか課税事業者なのかは判断できません。
税務調査のときに請求書や領収書などをチェックしていく中で相殺取引があることにはじめて判断できます。
税務調査で
「相殺前の売上は毎年1千万超なので、消費税を3年(or5年or7年)分納めてください。」
となった場合、過少申告加算税(or重加算税)や延滞税も含めれば百万円単位の納税が必要になってしまう可能性は十分あります。
同様に毎年相殺前の売上は5千万円超・相殺後の売上は5千万円以下の事業者も要注意です。
毎年簡易課税という特例計算で納付する消費税を計算していたのに、税務調査の結果簡易課税が認められず追加納付が必要になる課税リスクがあります。
簡易課税も相殺後の売上ではダメ
基準期間の売上が5千万円以下の場合に認められる簡易課税には別の課税リスクもあります。
この簡易課税では売上にかかる消費税に業種に応じた一定のパーセントを掛けて納付額を計算します。
このとき対象になる売上も相殺後の売上ではダメ。
相殺前の売上が計算の基準となります。
相殺後の売上を基に毎年消費税を納付していると、税務調査があったときには相殺していた売上にかかる消費税分だけ追加納付するよう指摘されるでしょう。
相殺後の売上で計算してもOKだと、なんでもかんでも相殺して納付する消費税を圧縮しようとする事業者がでてくるでしょうし、これは当然といえば当然です。
クレジット決済手数料と売上の相殺もダメ
簡易課税ではない原則的な消費税の計算方法であれば、実は売上が相殺前でも相殺後でも消費税の納付額は同じだったりします。
ただ、納付額が同じではない場合もあります。
それは相殺する経費に消費税がかかっていないケース。
代表的なのはお客さんがクレジットカードで売上代金を決済した場合に、売上が入金されるときにクレジット決済手数料が相殺されてくるケース。
クレジット決済手数料は消費税が非課税(QRコード決済手数料には消費税がかかっていたり、最近この辺は複雑化していますが)。
クレジット決済手数料相殺後の金額しか売上として認識しないと、これまた消費税の納付もれになってしまうので相殺後の金額で認識しないとダメです。
相殺仕訳の入力方法(期中現金主義の場合)
消費税の申告書は、会計ソフトを使用していれば日々の仕訳データを集計することで作成されます。
相殺前の金額を申告書に反映させたければ、相殺分の仕訳を会計ソフトに入力すればいいわけです。
例えば冒頭の売上10万円、外注費6万円が相殺され、4万円が振り込まれた場合。
お金が動いたときだけ仕訳を登録する期中現金主義というやり方が採られていることを前提にすると。
普段はお金が入金されたときに
普通預金 40,000 / 売上 40,000
この一仕訳だけ発生します。
この仕訳だけだと、当然相殺後の4万円の売上しか認識できません。
相殺後の仕訳として、口座に4万円入金があった日と同じ日付で
外注費 60,000 / 売上 60,000
と入力します。
これで相殺前の売上10万円を認識することができます。
売上1千万円・5千万円付近の事業者は特に注意!
簡易課税でない原則的な消費税の計算方法を採用していれば、相殺後の金額で納付する消費税額を計算していて、税務調査で後から指摘を受けたとしても相殺していたのが外注費など消費税が発生する経費であれば、原則追加納付することはありません。
影響があるのは、売上1千万円、5千万円付近の事業者です。
特に毎年売上がギリギリ1千万円以下、5千万円以下なんて場合は要注意です。
売上に載っている金額が相殺前の金額になっていないか、ぜひ一度確認してみることをオススメします。