簿記の知識がないと見分けられない「ありえない」決算書
今日は2月28日。
確定申告時期真っただ中です。
Youtubeで税務会計やお金についての動画をたくさん見ているためか、年明け以降動画視聴の間に差し込まれる会計ソフトメーカーのCMが増えました。
最近の会計ソフトメーカーの売りは
「簿記の知識がなくても決算書を自動作成!」
クレジットカードやネットバンキングの明細を取り込む設定さえできてしまえば、登録される金額にまず間違いはなし。
科目もAIが自動判定してくれます。
上手に活用すれば、ほぼ全自動で決算書を作成することも可能でしょう。
ただ、現実的にはなかなかそこまでうまくいきません。
特に簿記の知識がまったくない方であればなおさら。
1年間の取引明細をすべて取り込めば、確かに「決算書らしきもの」はできます。
けれどあくまでできあがるものは「決算書らしきもの」レベルです。
簿記の知識があれば「決算書らしきもの」に載っている不自然な「ありえない」箇所を見つけることができ、「決算書」に作り替えることができます。
「決算書らしきもの」のありえない箇所
貸借対照表の「借方合計」と「貸方合計」が一致していない
簿記の最も基本的なルールに「貸借一致の原則」というものがあります。
簿記の仕組み上「借方」の合計額と「貸方」の合計額が一致しないということはありえません。
明細を取り込んだだけなら借方と貸方の数値はまず一致します。
ありがちなのは、取り込んだ明細を訂正するときに、数値を打ち間違えるケースでしょう。
どの会計ソフトも借方と貸方の数値が一致していないとエラーメッセージを表示します。
ただ、簿記の知識がないとそのエラーメッセージを見ても意味がわからないし、その重要性に気づけないんですよね。
マイナスの残高がある
決算書の数値がマイナスになるケースは多くありません。
もちろん、業績が振るわず赤字になっていれば利益がマイナス表示されてしまうことはありえます。
それ以外で単体の科目がマイナスになるのは法人が作成する場合の決算書に載る「貸倒引当金」か「減価償却累計額」、「繰越利益剰余金」、「自己株式」くらいでしょう(個人事業主が作る決算書上は「貸倒引当金」をマイナス表示しません)。
マイナス残高の科目がある時点で何か間違っていると疑うべきです。
前回あった科目がない・前回なかった科目がある
何か新しい事業を始めたり、新店舗を出店したり、開業当初数年間など、業績が極端に変動するような状況でなければ、決算書に表示する科目はある程度決まってきます。
前回の決算書にあった科目がなかったり、逆に前回なかった科目がある場合、何か間違った処理をした結果そうっている可能性があります。
もちろん、特定の取引先との取引が終わったので科目を使わなくなったり、新規の取引先との取引が始まったので使う科目が増えたりということは十分ありえます。
ただ、そういった要因がないのに表示される科目が前回と様変わりしていれば、何かおかしいと疑うべきです。
一通り仕訳の登録が済んだあとは前回の決算書との比較が欠かせません。
弥生会計の場合
試算表表示画面(集計→残高試算表→月次・期間)の上部にある「前期比較表示」にチェックを入れることで前回と今回の数値を一覧表示させることができます。
前回より極端に利益が多いまたは少ない
1年前と同じような仕事をしていたのに、極端に利益が多くなったまたは少なくなった、なんていうのも怪しいです。
ふだん300万円くらいの利益なのに今年だけ1,000万円になっているとか。
経費にすべき取引を経費にせず家事費にしているとか、現金売上げの桁を実際より多く入力しているとか。
特に会計ソフト上の現金残高と実際の現金残高のつけ合わせをしていない場合十分ありえる話です。
貸借対照表に載っている残高の根拠がない
貸借対照表には決算日時点の資産や負債が一覧で表示されます。
損益計算書の各残高は1年間の取引を積み重ねた値になるのに対し、貸借対照表は決算日時点の値を表示します。
そのため、貸借対照表はその値の根拠となる資料を用意しやすいといえます。
例えば、損益計算書で表示される1年間の「売上高」の根拠を示すには1年間の間に発行した売上の請求書のすべてが必要です。
一方、貸借対照表の「現金預金」は決算日時点の現金残高と預金通帳に表示されている残高が根拠となります。
「売掛金」や「棚卸資産」や「固定資産」、「買掛金」や「未払金」。
これら貸借対照表の主要な値が根拠となる決算日時点の請求書や棚卸表、資産台帳の値と一致していれば、その決算書はかなり信頼性が高いです。
一方で貸借対照表に載っている数値の根拠がさっぱりわからないような場合は、残念ながらそれは「決算書」と呼べる代物とは言えないでしょう。
現金の残高が数百万円になっている
貸借対照表に載っている現金残高は、実在する現金の残高と一致しているのが大原則です。
ところが個人事業主や小規模な法人などは、実際の現金残高を数えていないケースが珍しくありません。
以前現金残高が数百万円になっている決算書を見たことがあります。
預金の残高が数百万円になっているのはわかりますが、現金が数百万円というのはさすがに…
もちろん商売上大量の現金仕入を常に行う必要があり、金庫に百万円札の束がいくつも入っているのが日常ということであれば何の問題もないのですが。
「手元の現金なんて財布に数万円しかいつも入れてないよ~」
という事業主の場合は問題ありです。
これも現金売上取引を手入力するときに桁を多く入れてしまったとか、逆に現金仕入取引を手入力するときに桁を少なく入れてしまったとかの単純ミスが原因である可能性が高いです。
簿記の知識で「決算書らしきもの」を「決算書」へ
簿記の知識がなくても、会計ソフトを駆使すれば確かに決算書らしきものは作れます。
作れますが、それはあくまで「決算書らしきもの」であって「決算書」とは呼べない代物である可能性が極めて高いです。
「決算書らしきもの」を外部へ提出できるレベルの「決算書」に磨き上げるには、やっぱり簿記の知識が欠かせません。
将来自分で事業をやってみたい方は日商簿記3級に受かるレベルの勉強をしておくことを強くオススメします。
独立前でも独立後でもかまいません。
千円程度の参考書でも勉強は可能ですし、専門学校に通っても学費は1万円程度。
これほどコスパのよい資格は他になかなかないはずです。